大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 平成3年(モ)13957号 判決

申立人(債務者) 角谷菊明

右訴訟代理人弁護士 苅部省二

被申立人(債権者) 東京商銀信用組合

右代表者代表理事 許弼

右訴訟代理人弁護士 山岸文雄

山岸哲男

山岸美佐子

主文

一  右当事者間の東京地方裁判所平成元年(ヨ)第五三三四号不動産仮差押申請事件について、同裁判所が平成元年一一月一〇日にした仮差押決定は、これを取り消す。

二  訴訟費用は被申立人の負担とする。

三  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一申立て

主文第一、二項同旨

第二事案の概要

(争いのない事実及び当裁判所に顕著な事実)

一  東京地方裁判所は、平成元年一一月一〇日、被申立人の申請に基づき平成元年(ヨ)第五三三四号不動産仮差押申請事件(本件仮差押事件)について、別紙物件目録<省略>一記載の不動産を仮に差し押さえる旨の決定(本件決定)をし、同月一三日その旨の登記がされた。

二  被申立人は、右仮差押えの申請に際し、「被申立人(債権者)は、昭和五五年二月二五日、申立外三村貞夫こと崔永鎬(申立外三村)との間で、申立人(債務者)所有名義の別紙物件目録二記載の各不動産(本件二の各不動産)に、極度額二〇〇〇万円の根抵当権を設定したところ、昭和五七年三月六日に至り、申立外三村と申立人は、右建物等が申立人名義であることを奇貨として右根抵当権を抹消しようと企て、共謀の上、申立人において、右根抵当権設定は申立外三村が申立人を欺罔して勝手に設定したものであると主張して、被申立人を被告として横浜地方裁判所に根抵当権設定登記等抹消登記手続請求の訴え(同裁判所昭和五七年(ワ)第五二〇号)を提起し、その勝訴判決を得たため、昭和六一年五月六日右根抵当権の登記が抹消され、被申立人において右根抵当権の実行による債権回収ができなくなったことにより、金二〇〇〇万円の損害を受けた。」旨主張し、不法行為に基づく右同額の損害賠償請求権を請求債権とした。

三  右の仮差押申請に先立ち、申立人が原告となって提起した横浜地方裁判所昭和五七年(ワ)第五二〇号事件において、同裁判所は、申立人が前記根抵当権の設定契約に際し申立外三村にその代理権を授与した事実は認められず、また、被申立人が申立外三村を申立人の代理人と信じたことについて正当な理由があるとはいえず、かえって、被申立人が申立外三村を申立人の代理人と信じたことに過失があると認定し、申立人勝訴の判決をした。被申立人は、右判決を不服として控訴し、その控訴審において、根抵当権の設定された不動産の所有者は申立人ではなく、申立外三村又は申立外三村朝子である旨主張して争ったが、東京高等裁判所は、昭和六一年三月二七日右主張を排斥して控訴を棄却する判決を言い渡し、その判決は確定した。

四  被申立人は、平成二年六月四日、申立人、申立外三村らを被告として東京地方裁判所に本件仮差押事件の本案訴訟を提起したが(平成二年(ワ)第六六六五号損害賠償請求事件)、同裁判所の勧告もあったことから、平成二年一一月二一日、右訴えを取り下げた。

五  本件の口頭弁論終結時である平成三年一〇月二三日に至っても、被申立人は、右根抵当権設定登記等抹消登記手続請求事件の再審の訴えやあるいは本件仮差押事件の本案訴訟を提起していない。

(主たる争点)

被申立人が本件仮差押事件の本案訴訟を取り下げたこと等によって、本件仮差押えについて、民訴法七四七条にいう事情の変更があったか否か。

第三当裁判所の判断

民訴法二三七条二項によれば、本案につき終局判決のあった後に訴えを取り下げた者は同一の訴えを提起することができない旨規定されており、その反対解釈として、終局判決に至る前に訴えを取り下げた者は、再度同一の訴えを提起することが許されると解することができるから、被申立人が本件仮差押事件の本案訴訟(東京地方裁判所平成二年(ワ)第六六六五号事件)を取り下げたこと自体から直ちに、本件仮差押えの被保全権利又は保全の必要性が消滅した、あるいは、民訴法七四七条にいう事情の変更が生じたということはできない。

しかしながら、①本件仮差押事件の本案訴訟は、前記のとおり、「申立人と申立外三村が、共謀の上、本件二の各不動産が申立人名義であることを奇貨として右根抵当権を抹消しようと企て、申立人において、右根抵当権設定は申立外三村が申立人を欺罔して勝手に設定したものであると主張して横浜地方裁判所に根抵当権設定登記等抹消登記手続請求の訴えを提起し、その勝訴判決を得たため、昭和六一年五月六日右根抵当権の登記が抹消され、被申立人において右根抵当権の実行による債権回収ができなくなったことにより、金二〇〇〇万円の損害を受けた。」旨の事実を請求原因とするものであるところ、その申立人と申立外三村との共謀の事実は、根抵当権設定の代理権授与の事実が争われた前記横浜地方裁判所昭和五七年(ワ)第五二〇号事件において証明されてはおらず(証明されていれば、申立人が申立外三村に対し根抵当権設定の代理権を授与したものと認められることになろう。)、右根抵当権の設定が無効であったことが確定していること、②被申立人が、本件仮差押事件の本案訴訟の訴状において、右共謀の事実を立証する間接事実として新たに挙げているのは、昭和六二年三月六日に申立人から申立外三村朝子に本件二の各不動産の所有名義が移転された事実のみであること、③被申立人は、本件仮差押事件の本案訴訟を提起したが、平成二年一一月二一日、これを取り下げ、その後、平成三年一〇月二三日に至っても、なお右仮差押事件の本案訴訟を提起しておらず、また、前記横浜地方裁判所昭和五七年(ワ)第五二〇号事件について再審の訴えも提起していないこと等の事情に照らすと、本件仮差押事件について事情の変更があったものと解され、本件仮差押事件について、本件決定を維持することは相当でないものというべきである。

第四結論

以上によれば、申立人の主張は理由があるからこれを認容

(裁判官 髙橋譲)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例